2024年の共通テストの受験者数は49万1914人で,いよいよ50万人を下回りました.
少子化による受験生の減少は止まることがありません.
大学進学の約50%が推薦入試で決まる現在の大学受験では,現役合格が当たり前となり,その結果,浪人生の数が大幅に減少しています.
一昔前は浪人して難関大学を目指すのがスタンダードでしたが、それはもう過去ものになりました.
浪人生の指導をメインとしている予備校はどんどん縮小しています.駿台・河合塾といった大手予備校でも,資金力に余裕がありません.
今回は現在の予備校の衰退をまとめてみました.
駿台で社会科講師の大量解雇
駿台では,よほどの人気講師でない限り,社会科講師の大幅な解雇が行われました.講師紹介のパンフレットに掲載されていても,実際には出講せず,担当授業のない講師が多数います.
コロナの影響で対面授業が実施できなくなったため,生徒は動画で授業を受けることに慣れ,オンライン授業が発達しました.そこで駿台は社会科の授業を首都圏で実施し,その授業を各校舎で視聴できる仕組みを作りました.その結果,社会科の講師は科目ごとに1人だけ配置するだけでよくなり,多くの社会科講師を解雇しても授業を提供することはできるようになりました.
この流れは社会科だけでなく,他の教科においても進んでいます.
今はどこの予備校も講師のコマ給だけでなく,交通費の経費削減に取り組んでいます.それはもちろん駿台でも例に違いません.配信による動画の授業にすれば,講師のコマ給だけでなく,交通費の経費削減にもなります.大手であっても,今や予備校はそこまで経費削減しなければならない状況です.
河合塾,組合と衝突
多くの塾・予備校は業務委託契約をしている非常勤講師に授業を依頼しています.業務委託契約のため、講師には有給休暇やボーナス、社会保険といった福利厚生が提供されず,塾が用意した授業に対しての報酬を支払うという仕組みです.
河合塾は予備校業界で最も,福利厚生が充実していると言われていました.有給も保険も充実しており,勤続年数によるボーナスもあるほどでした.その福利厚生の一環として,講師主導の組合も設立されています.多くの塾・予備校には組合なんて存在しません.
ですので,講師の労働環境の向上や,賃金交渉は個人で行わなければなりませんし,講師全員が不満に思っていることがあっても,たった一人の声として,会社側には黙殺されることがほとんどです.
しかし,河合塾には組合があるので,会社に対して強く改善願いを出すことができました.
現在,河合塾は講師が授業のコマが減らされたとして組合と衝突しています.
河合塾も生徒数が減少したことで,これまで通りの授業数を維持することが難しくなりました.そこで,収録した授業を生徒に視聴させたり,名古屋校の授業をオンラインで繋ぎ他校舎でも視聴できるシステムを作ることで,講師のコマ給削減に向かいました.そのため,大半の講師の方が担当授業数の減少,すなわち報酬が減少しました.
河合塾では講師アンケートによってコマ給(河合塾の場合,1分いくらという分給)が決まるということではなく,年功序列ではなく年齢序列に基づき,講師本人の年齢によりコマ給が決まります.
河合塾からすると,長く雇用している年配の講師一人のコマ給で,若手の先生3人分ぐらいのコマ給が支払えるわけですので,授業を商品とする予備校のシステムを維持するためには,高給の年配の講師のコマを削減するしかないと.しかし,それを行ったために,年配の講師で成り立っている組合と衝突することになりました.
2021年ごろから,河合塾は年間で30億円の赤字が出ており,もう数年でキャッシュが尽きるとさえも言われています.最大校舎である河合塾千種校は生徒の50%を高卒生で占めていましたが,2022年に初めて50%を下回り,そこから回復できていません.
駿台のように解雇を進めなければ,存続ができないという状況で,現在も組合との衝突が続いています.
医学部予備校メディカルラボ,中学生の入会開始
医学部専門予備校の最大手であるメディカルラボで,中学生の入会が解禁されました.
メディカルラボは個別指導の塾・予備校ですので,学力による入会の制限はありません.ですので,再受験生や数学IIIを履修していない文系出身者でも,入会が可能です. 現在の全国で見られる医学部予備校の1時間あたり1万円という授業料の相場を作ったのは,メディカルラボではないでしょうか.(メディカルラボは1授業あたり23500円)
そんなメディカルラボでも入会のルールの一つに,「学校で数1Aの授業が始まったら」というものがありました.ですので,中高一貫校の方でしたら,中3から.高校受験を行った方でしたら,高1から入会可能となることが多いです.
そのルールが2023年から変更となり,中学生でも入会できるようになりました.
変更した理由は,浪人生が集まらないからです.
予備校のメインのお客さんは浪人生です.現役生は学校があるので,1日1授業程度しか受講できません.それに対して,高卒生は1日に受講できる数が増えますので,売上も上がります.
しかし,浪人生が激減しました今では,浪人生の生徒数の確保が難しくなり,中学生まで窓口を広げて生徒数を確保しないと経営の維持が難しくなりました.
予備校講師の中には,中学生の指導は嫌だとおっしゃる方もおられますが,販路を広げるという戦略は塾・予備校としてクリーンです.
学費が高いと言われる医学部予備校と言えども,生き残るために新しい取り組みをしていかないとならないということなのでしょうね.
情報Ⅰの講師採用の窓口がない
次年度2024年度,2025年入試から新課程に変わり,共通テストに情報Ⅰが入ります.受験は必須とするが,得点化しないと発表している大学もありますが,国公立大学の医学部の大半はしっかり得点化するそうです.
今は推薦入試によって,進学先を決める受験生が50%を占めていますが,国公立大学への進学者は依然として98%が一般入試です.ですので,国公立大学に進学したいと考えている受験生は,情報Ⅰの学習と対策が必要となります.しかし,駿台と河合塾は,情報Ⅰという新しい試験科目の講師採用は進めていない,情報Ⅰの対策は行えないということです.
予備校は「今年は初年度なんで,おそらく簡単になる.教科書に載っている内容と用語が理解できていれば,解けるような問題だろう」といった甘い見積もりなのでしょう.実際,新設される試験科目なので,「情報Ⅰなんて教科書読んでたら点数は取れるようになるやろ」と考えている講師の方は多数います.
簡単になるという想定からか,新しい講師を雇う資金力がないのからか,どういった事情からかはわかりませんが,事実として,情報Ⅰの講師採用は駿台・河合塾では行われておりません.
(もしかしたら,講師のコマ給節約のために社員がパワポでスライドを見せるといった授業になったり,映像授業のみとなる可能性もあるでしょう)
次年度,駿台や河合塾で浪人生活を行う方は,自力で情報1の対策を行わなければなりません.
2025年の共通テストでは,国語で大問が増えたり,数学で選択問題の範囲が変更されたりと大きく改訂が行われる中で,情報Ⅰの学習を独学で進めなければならない受験生は大変です.
講師が今の時代に合っていない
予備校は非常に狭い世界です.
1990年代にトップ講師やカリスマ講師と崇められた講師が,2020年代になった今でも,トップ講師として君臨しています.
入試制度は変わったにも関わらず,塾・予備校のシステムもビジネスモデルも変わりませんし,何よりも一部のトップ講師による授業という商品は変わりません.
スマホが売れている時代にガラケーをずっと売っているのと同じです.
センター試験よりも前に実施されていた共通一次試験の頃から,センター試験の頃にうまくいっていたメゾットが,今の共通テストの時代にも通用するとは言えません.それは問題の難易度や傾向からしても言えるでしょう.
しかし,予備校は一部のカリスマ講師を呼ばれる人間に頼るしかありません.塾・予備校の没落は,カリスマ講師の没落と同じ意味です.
時代は変わりました.変化に合わせて講師も,変化・成長しなければならないのですが,過去の成功体験からか,自分のやり方を捨てられない方は多くいます.
まさに日本の教育の縮図と言えますね.
最後に
予備校,浪人という文化が死につつあるのには,予備校側の自業自得という側面もあります.
文科省が現役合格を増やすと方針を立てたときに,予備校側も仲良く,現役生中心に軌道修正しようとしました.その結果が今の浪人生の激減です.あの時に予備校がするべきことは,「浪人して難関大学に入ることはイケてる」というキャペーンをするべきだったのです.
大手予備校の衰退に反して,鉄緑会の生徒数は年々増加,拡大しています.
近年の中学受験の盛り上がりからしても,学習塾のニーズは高まっています.
予備校は衰退していきますが,塾は伸びています.
また予備校の仕事は授業だけではありません.模試の作成と実施も予備校の大切な商品です.しかし,これほど経営するのが難しくなった中で,これまで通りの品質が維持できるでしょうか?
ここ数年,全統模試の品質はどんどん下がっていくばかりです.
いかがでしたか?
Education Salonのホームページです.
数学や算数が苦手な方、数学の定期テストで高得点を取りたい方、数学の力をさらに伸ばしたい方。学習相談や進路相談など、お気軽にお問い合わせして下さい^ ^
LINEでも受け付けております.LINE IDは@vsr1828yです.